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東京地方裁判所 平成6年(ワ)8801号 判決

原告

海老原紘司

ほか二名

被告

関根輝男

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告海老原紘司に対し五七〇万六四〇九円、原告海老原洋子に対し四九七万七八〇一円、原告海老原直子に対し一九九一万一二〇五円及びこれらに対する平成五年九月一八日からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

三  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは各自、原告海老原紘司に対し一〇九四万二七一四円、同海老原洋子に対し九七四万四三一四円、同海老原直子に対し三八九七万七二五九円及び右各金員に対する平成五年九月一八日からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被害者が同乗していた自動二輪車に、貨物自動車が衝突し、被害者が死亡したとして、その相続人が損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

日時 平成五年九月一八日午前二時三五分ころ

場所 千葉県印旛郡本埜村安食卜杭九五五番地先路上

加害車 被告関根輝男(被告関根)運転の自家用普通貨物自動車(福島一一ゆ四三八八・本件貨物自動車)

被害車 訴外岩井隆(訴外岩井)運転の自家用自動二輪車(千葉む六八九〇・本件自動二輪車)

被害者 本件自動二輪車に同乗中の海老原伸輝(亡伸輝)

態様 丁字路交差点を右折した本件自動二輪車が、直進してきた本件貨物自動車に衝突し、右自動二輪車に同乗していた亡伸輝が死亡した。

2  損害の填補

原告らは本件事故に関する自賠責保険として三〇〇〇万一六〇〇円の支払を受けた。

二  証拠により認定した事実

1  原告海老原紘司(原告紘司)及び同海老原洋子(原告洋子)は、亡伸輝の父母である(甲三)。

2  原告海老原直子(原告直子)は、亡伸輝の妻である(甲四)。

三  争点

1  被告関根の過失責任

(一) 原告らの主張

本件現場は丁字路交差点であり、被告関根の進行方向の信号機は黄色の灯火が点滅していたから、このような場合被告関根としては、本件交差点に進入する際、交差道路を通行する車両に特に注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と本件貨物自動車を本件交差点に進入させた過失により、亡伸輝を死亡させたもので、民法七〇九条による責任がある。

(二) 被告らの主張

本件事故は、訴外岩井が赤色の点滅信号を無視し、交差点手前で一旦停止することなく、かつ、本件自動二輪車の前輪を上げ後輪のみの無謀な走行状態で本件交差点に進入したために起きたものであり、被告関根の運転行為に過失はない。

2  被告有限会社関根製作所(被告会社)の責任

(一) 原告らの主張

被告会社は本件貨物自動車を保有し、自己のために運行の用に供していた者であり、本件事故について自賠法三条の責任がある。

(二) 被告らの主張

被告会社(代表者は被告関根の実兄)は本件貨物自動車の使用者となつているが、車庫証明の関係から被告関根がその名義を借りたものであり、車両購入代金も被告関根が支払つているのであり、被告会社は運行供用者ではない。

3  過失相殺(被告らの主張)

亡伸輝は、本件事故前夜から訴外岩井と共に飲酒し、同人が無免許であることを認識しながら、本件自動二輪車に同乗して深夜の暴走行為を行つていたもので、亡伸輝には同乗を見合わせて本件事故の発生を避けるべき注意義務があり、これを怠つた過失があるから、過失相殺がなされるべきである。

4  損害額(原告らの主張は別紙損害金計算書(1)のとおり。)

第三争点に対する判断

一  争点1

1  前記争いのない事実に、証拠(甲二、二〇の1、2、二一の1、2、二二の1ないし12、二四の1、2、乙一、四ないし六、被告関根)を総合すると次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、東西に走る国道三五六号線と村道が交差する丁字路交差点であり、交通信号機が設置されている。

国道三五六号線は、幅員五・六メートルの片側一車線の直線道路で、路面はアスフアルト舗装されており、路面には凹凸はなく、平坦で、車道中央には幅一五センチメートルの黄色の実線の中央線が標示されている。

村道は、幅員四・八メートルの中央線のない直線道路で、南に向かつて緩やかな下り坂となつており、路面はアスフアルト舗装されている。

(二) 本件事故現場交差点は、三方の入口には幅員四メートルの横断歩道が設置され、それぞれ停止線が標示されている。

(三) 被告関根は、本件事故現場付近を東方向から西方向に時速約四〇キロメートルで進行中、本件交差点の約二八メートル手前で対面信号が黄色の点滅信号であることを認めたが、そのままの速度で約一六・八メートル進行したところ、村道から本件交差点に右折進入してくる本件自動二輪車を二四・四メートル先に発見し、急ブレーキをかけ、ハンドルを右に転把したが本件自動二輪車と衝突し、その結果、亡伸輝は内臓破裂により即死した。

(四) 衝突直前の本件自動二輪車の走行状態は、前輪を上げて後輪のみで走行しており、かなりの速度が出ている状態であつた。

2  右認定事実によると、被告関根は、進路前方の信号機が黄色の点滅であつたのであるから、進路左方の道路から車両等が進入してくるかもしれないことを予想し、徐行するなどして注意して進行すべきであるにもかかわらず、徐行や減速等の措置をとることなく、本件交差点に進入しようとしたために本件事故を惹起させたというべきであり、被告関根には過失が認められ、民法七〇九条による責任がある。

二  争点2

1  証拠(甲五、二三、被告関根、弁論の全趣旨)によると、登録上本件貨物自動車の使用者は被告会社となつていること、被告会社の代表者は被告関根の兄であること、被告関根は本件貨物自動車を購入する際、資金がなかつたため、被告会社の名義を借りて、被告会社が主債務者となるローンを組み、被告関根がその債務を分割して返済したこと、被告会社は右ローンの主債務者となることを了承していたこと、車庫証明も被告会社の同意の上でその名義で取得していること、被告会社は自賠責保険や任意保険は被告会社が契約者となつていること、右保険料は被告関根が負担していることの各事実が認められる。

2  右事実によると、被告会社は、本件貨物自動車の購入について経済的負担をしていないものの、被告会社の代表者の弟のために、ローンの主債務者となることを了承しており、被告関根の分割弁済が滞ればその支払責任を免れない立場にあつたもので、仮に被告会社に結果として経済的負担がなかつたとしても本件貨物自動車の運行供用者であることを否定する事情とはならないものであり、被告会社には自賠法三条の責任がある。

三  争点3

前記認定の事実に、証拠(乙七、証人岩井隆)を総合すると、亡伸輝は訴外岩井が自動二輪車の運転免許を有しておらず、無免許運転であることを知つていたこと、本件事故の前夜から亡伸輝と訴外岩井はスナツク等で飲酒していたこと、亡伸輝の血液一ミリリツトルにつき〇・一五ミリグラムのエチルアルコールの含有が認められたこと、亡伸輝は本件事故前に一、二回、訴外岩井の運転する本件自動二輪車に同乗していたことの各事実が認められる。

右事実によると、訴外岩井は本件事故当時、飲酒の上本件自動二輪車を運転しており、共に飲酒していた亡伸輝はその危険性を承知して同乗したというべきであるうえに、亡伸輝は以前にも本件自動二輪車に同乗したことがあることからすると、今回も自らの意思に基づいて同乗したと考えられ、さらに亡伸輝は訴外岩井が無免許運転であることをも知つていたのであり、これらの事情を考慮すると公平の見地から損害額から三〇パーセントの減額をするのが相当である。

四  争点4

1  逸失利益

前記認定の事実に、証拠(甲三、四、六ないし一一、二五ないし二七、二八の1、2、二九の1、2、原告紘司、弁論の全趣旨)を総合すると、亡伸輝は昭和四四年一一月一一日生まれで、本件事故当時二三歳であること、高校卒業後二年間自動車整備の専門学校に通つて二級整備士等の資格を取得した後、千葉三菱コルト自動車販売株式会社入社して整備の仕事を担当していたこと、同社での平成四年の給与所得は三五六万四三八一円であつたこと、平成五年五月に同社を退職し、父である原告紘司の経営する有限会社海老原興業(海老原興業)に就職して整備の仕事をしていたこと、海老原興業は自動車整備、レンタカー事業等を目的とする会社であること、原告紘司は亡伸輝を海老原興業の後継者と考えていたこと、原告紘司は海老原興業からは一月に三五万円程度の収入があること、原告洋子は海老原興業から約四五万円の収入があること、原告紘司はこの他に自動車の販売を目的とする株式会社えびはらを経営し、同社からも海老原興業と同様の収入があつたことの各事実が認められる。

右事実によると、亡伸輝の死亡前年の収入は三五六万四三八一円であることが認められるものの、自動車整備士の資格を有する亡伸輝は父の経営する自動車整備等を目的とする会社の後継者と期待されており、将来はその代表者の地位に就いたものと考えられ、今後死亡前年の現実収入を上回る収入が得られる見込みがあつたものというべきであり、その具体的な額の算出はできないが、原告紘司等の収入を勘案すると、少なくとも平成四年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者、全年齢平均の賃金額五四四万一四〇〇円を下回らない収入を得ることが可能であつたと考えるのが相当である。

そして、亡伸輝には被扶養者として妻がいたから生活費として四〇パーセントを控除し、二三歳から六七歳まで四四年間就労が可能であつたと認められるから、その間の中間利息を控除するとその額は次のとおりとなる。

5,441,400×(1-0.4)×17.663=57,666,868

2  慰謝料

亡伸輝は本件事故の約一か月半前の平成五年七月三〇日に原告直子との婚姻の届け出をし、新婚家庭を築きつつあつた矢先に本件事故に遭遇したこと、その他本件事故の態様、結果等本件に顕れた諸事情を総合考慮すると、亡伸輝の死亡による精神的苦痛を慰謝するには二四〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用

証拠(甲一二の1、2、一三ないし一五、一六の1、2、一七、一八の1、2、一九の1ないし3、弁論の全趣旨)によると、原告紘司が亡伸輝の葬儀を行い九五万七四四一円を支出したことが認められ、これは本件事故と因果関係のある損害と認められる。

前記認定のとおり、亡伸輝の損害額は三〇パーセントを減額すべきであり、これは原告紘司の損害についても同様に考えるべきであり、これを控除するとその額は六七万〇二〇八円となる。

4  相続

亡伸輝の損害合計は八一六六万六八六八円となるが、前記認定のとおり右損害から三〇パーセントを減額すべきであるから、これを控除するとその額は五七一六万六八〇七円となる。

そして、前記認定のとおり、原告直子は亡伸輝の妻であり、原告紘司、同洋子は亡伸輝の父母であるから、亡伸輝の損害は原告直子が三分の二を、原告紘司、同洋子が各六分の一を相続したものであり、その額は原告直子が三八一一万一二〇五円、原告紘司、同洋子が各九五二万七八〇一円宛となる。

5  填補

原告らが自賠責保険から三〇〇〇万一六〇〇円の支払を受け、原告紘司が五〇〇万一六〇〇円を、同洋子が五〇〇万円を、同直子が二〇〇〇万円をそれぞれ損害に充当したことは原告らの自認するところである。

6  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起、遂行を原告ら代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経緯及び認容額等の諸事情に鑑みると、原告らの本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、原告紘司に五一万円を、同洋子に四五万円を、同直子に一八〇万円をそれぞれ認めるのが相当である。

7  総括(別紙損害金計算書(2))

原告紘司につき五七〇万六四〇九円、同洋子につき四九七万七八〇一円、同直子につき一九九一万一二〇五円がそれぞれの損害額となる。

五  まとめ

以上によると、原告らの請求は、被告ら各自に対し、原告紘司につき五七〇万六四〇九円、同洋子につき四九七万七八〇一円、同直子につき一九九一万一二〇五円及び右各金員に対する本件事故日である平成五年九月一八日からいずれも支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 竹内純一)

損害金計算書(1)

事件番号678801

当事者 海老原紘司・洋子・直子VS関根輝男・(有)関根製作所

〈省略〉

損害金計算書(2)

事件番号678801

当事者 海老原紘司・洋子・直子VS関根輝男・(有)関根製作所

〈省略〉

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